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遠くで踏切の音がする。花井の呼吸が荒くて重い。シャツの裾ばかり痛かった。部屋の窓から見えた青空が寒々しく青い。
全てに責められている倒錯、倒錯、倒錯。倒錯に倒錯を重ねたのはいつ頃だったか。
ぞりりとした頭を胸元に引き寄せると、ゆっくりと見上げられた。身体の上に乗る熱い身体が汗ばみ続けている。ぺっとりとしたシャツ。
背中に手を乗せて、撫でるように動かすと、ようやく花井が口を開いた。今日、コイツがうちに来てから初めて発する言葉だった。
「…阿部、痛い?」
「痛い」
二人とも不自然な体勢で、どちらかが動くのを待っていた。繋がった下半身で、ぞわりぞわりと違和感が膿み続ける。
濡れる筈が無いのに、突っ込まれた性器を押し留める肉。花井の眉間に縦にシワが刻まれて、自分の腰が軋むのが分かった。後ろが切れる寸前の、押し広げら
れる凄まじい感触。
アクションを待っていた。
「抜いた方が…良いのか」
「…まだイケる気がする」
「動けねーよ」
「花井」
はない、と呼ぶ。撫でるように呼ぶ頭。手繰り寄せた耳元に唇を寄せて噛む。少しずつ力を入れて。
「いいよ。無茶に動いても」
「え」
「…痛い方が興奮すっから」
寒い空。寒い部屋。青い壁。白いシャツ。寒い心。花井の目の奥に揺らぐ、くすぶる熱が燃え始める。
「…ぐ…」
半端に止まった腰が押し進む。限界を超えた質量に、内臓が抉られるようだった。
「あべ………阿部………あべ…」
たどたどしくも加速する動きに、激痛が走る。生まれるアドレナリンは、興奮に繋がった。痛みが心地良い。そうして倒錯に更なる倒錯を重ねる。
背中に乗せた指が、うっすらと浮く汗に滑る。しがみつくように爪を立てると、花井が呻いた。
「痛…ぇ……?」
「いや、いい……、そのまま………」
揺れる身体に乗る爪は、背中の肉を少しずつ抉っていく。爪に潜る血の感触がした。花井が呻く。気持ちよさそうに。
「変態………」
「お前もな…」
埋めた肩にかぶりつくと、塩の味。この堅くて骨しかない男の肩に興奮して劣情を催すのが、一番倒錯してるんだ。
だからオレはお前が好き。
070918
『炭水化物と鉄と骨』
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